オフィスや設備を「経営の資源」として戦略的に活かす考え方が、ファシリティマネジメントです。本記事では、その意味やメリット、PDCAサイクル、具体的な取り組みまで、専門用語をかみ砕いて分かりやすく解説します。自社の施設運用を見直したい従業員の方は、ぜひ参考にしてください。
ファシリティマネジメントとは?
ファシリティマネジメントとは、企業が持つ建物・設備・オフィス環境を経営の視点から総合的に企画・管理・活用する経営活動のことで、英語の頭文字をとってFAとも表記されます。日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)は、これを「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と定義しています。
そこで近年は、人事・財務・ICTと並ぶ「第4の経営基盤」として、施設を戦略的に管理する発想が広まっています。建物を建てては壊す従来型の運用から、既存の施設をいかに活かすかという発想へ転換が進んだことも、この流れを後押ししています。つまりファシリティマネジメントは、施設を単なる「コスト」ではなく「価値を生む資産」として捉え直す取り組みなのです。
ファシリティマネジメントのレベル定義
ファシリティマネジメントは、いきなり完成形を目指すものではなく、段階を踏んで成熟させていく取り組みです。JFMAは、その活動を「経営レベル」「管理レベル」「日常業務レベル」という3つのレベルに分類しています。それぞれ、施設を見る視点と担当する業務の範囲が異なります。3つのレベルは独立したものではなく、ピラミッドのように下が上を支える関係にあります。
ファシリティマネジメントのレベル▼
日常業務レベルの清掃や修繕といった土台が整っていなければ、その上の効率化や経営戦略との連動には進めません。自社が今どのレベルにあるかを把握し、次の段階を意識して取り組むことが大切です。下の表で、3つのレベルの違いを整理します。
| レベル | 視点 | 主な業務内容 | 担当者の例 |
|---|---|---|---|
| 経営レベル | 経営戦略 | 全施設を経営資源として捉え、中長期計画と結びつけて活用方針を決める | 経営層・統括責任者 |
| 管理レベル | 効率化 | 施設・設備の状態を改善し、コスト削減や効率化を図る | 総務・施設管理部門 |
| 日常業務レベル | 運営維持 | 清掃・保全・修繕など、日々の運営を計画的に行う | 現場担当者・委託業者 |
参考:JFMA
このように整理すると、ファシリティマネジメントが現場の作業から経営判断までを一本でつなぐ仕組みであることが分かります。
ファシリティマネジメントのメリット
企業や事業の運営において、ファシリティマネジメントの考え方を導入することにはさまざまなメリットがあります。ここでは代表的な5つのメリットを、解説していきます。
メリット1.コスト削減
最大のメリットは、施設にかかるムダな費用を減らせることです。施設費は人件費に次ぐ大きな固定費でありながら、見直しの余地が残されている領域だからです。
設備の使用状況を把握し、優先順位をつけて手を打っていき、限られた予算でも着実な削減を目指しましょう。
メリット2.従業員の生産性アップ
ファシリティマネジメントは、従業員が働きやすい環境を整え、生産性向上にもつながる考え方でもあります。オフィス環境は、仕事の成果や意欲に直結するためです。一般社団法人日本オフィス家具協会の調査では、オフィス環境が仕事の成果やモチベーションに影響すると考える従業員は70%以上という結果が出ています(参照:一般社団法人日本オフィス家具協会)。
メリット3.資産価値の維持・向上
施設の計画的な管理は、建物そのものの資産価値を守ることにつながります。設備は使い続ければ必ず劣化し、放置すれば修繕費がふくらんだり、安全面のリスクが高まったりするためです。
メリット4.経営環境変化への柔軟な対応
ファシリティマネジメントの考え方を取り入れ、施設をあらかじめ「変えやすい状態」に整えておけば、市場の変化による事業環境の変化にも素早く対応しやすくなります。
施設を経営戦略と結びつけて管理しておけば、こうした変化にも慌てず対応できます。変化に強い施設は、事業の成長を支える基盤になります。
メリット5.CSRへの貢献
オフィスビルは多くのエネルギーを消費し、二酸化炭素を排出する施設でもあるため、施設の適切な管理は、企業の社会的責任(CSR)を果たすことにもつながります。
省エネ設備への切り替えや効率的な運用は、光熱費の削減と環境負荷の低減を同時に実現します。環境をはじめ、SDGsへの取り組みは、取引先や求職者からの企業評価にも影響します。施設運用を見直すことは、コスト面の効果にとどまらず、企業の信頼性を高める活動でもあるのです。
≫SDGsとは?企業も取り組む手軽に始められる方法と4つの事例
ファシリティマネジメントにおけるPDCAサイクル
どのような施策も一度実施して終わりではなく、PDCAサイクルを回し続けることで効果を発揮します。ファシリティマネジメントもそれは同じ。施設の状態も事業環境も常に変化するため、定期的な見直しと改善が欠かせません。JFMAも、計画から評価・改善までを一連の業務サイクルとして示しています。各段階を順に見ていきましょう。
<ファシリティマネジメントのPDCA概要>
| PDCAサイクル | 概要 |
| P(計画) | ■経営戦略にもとづいて施設や設備をどう活用・改善するかを計画する
■現状の課題を洗い出し、目標と進め方を決める段階 |
| D(実行) | ■計画に沿って具体的な施策を進める
■設備の更新やレイアウト変更といったプロジェクトを実施したり、日々の運営・維持管理を行ったりする段階 |
| C(評価) | ■実施した施策の成果を検証する
■コストがどれだけ下がったか、従業員の満足度がどう変わったかなど、結果を客観的に確認する |
| A(改善) | ■評価の結果をもとに改善点を整理し、次の計画へ反映する
■この改善が次のP(計画)につながる |
このサイクルを回し続けることで、施設管理は一度きりの対応ではなく、経営を支え続ける仕組みとして機能していきます。
ファシリティマネジメントの具体例5選
ファシリティマネジメントの考え方を理解するには、実際にどのような取り組みがあるのかを知るのが近道です。ここでは、多くの企業で実践されている5つの具体例を紹介していきます。
例1.定期的なメンテナンス
施設や設備の定期的なメンテナンスは、ファシリティマネジメントの土台となる取り組みです。設備の不調を早期に発見できれば、大きな故障や事故を未然に防げるためです。
例2.レイアウト変更
働き方の変化に合わせて空間を最適化する場合、オフィスのレイアウト変更が生じるケースもあります。
<よくあるレイアウト変更例>
- 会議室を増やす
- 集中スペースを作る
- 仮眠室を作る
- 固定席を見直してフリーアドレスを導入する
- 会議室以外に打ち合わせスペースを設置する
- コミュニケーションを重視してワンフロア化する
≫フリーアドレスのレイアウト事例と失敗しないための注意点を解説
例3.パーテーションの活用
先ほど解説したレイアウト変更には、パーテーションが便利です。施工型パーテーションは壁に近い仕切りを保ちつつ、設置・撤去が造作壁と比べて容易なため、将来レイアウト変更の可能性がある場合でも使い勝手が良いのです。
施工型パーテーションで個室を作った例▼
こちらの事例は1日で施工を終えており、通常数字以上かかる造作壁の工事と比べて、工期期間も短く済みます。そのため、日々の業務への影響も比較的少なく済む点もメリットと言えます。空間を区切る必要が生じたときは、以降のレイアウト変更なども見据えて、ぜひパーテーションも検討してみてください。
≫パーテーションの種類と特徴!目的別の選び方も施工会社が徹底解説
例4.省エネ対策
省エネ対策は、コスト削減と環境負荷の低減を同時に進められる取り組みです。オフィスの電力消費は、空調・照明・OA機器だけで全体の約8割を占めるためです(参照:経済産業省 資源エネルギー庁)。代表的な省エネ方法には、以下のようなものがあります。
<オフィスの代表的な省エネ対策方法>
- クールビズの導入
- LED照明への切り替え
- 照明に人感センサーを導入
- 高効率な空調設備への更新
- 機器の省エネモード設定を推奨
- 空調を適切な温度に設定する(夏:28度、冬:20度)
- 空調の温度設定をおさえてサーキュレーターを併用する
消費の大きい設備から優先的に対策すれば、投じた費用に見合った効果を得やすくなります。また、設定の見直しやルール変更なら、現状の設備を活用したままでも改善が見込める場合もあります。省エネは、企業の負担を軽くしながら社会的責任にも応える施策のため、まずは対応しやすいものから着手してみてはいかがでしょうか。
≫蛍光灯は2027年で製造中止・生産終了!LED照明化の手引き
例5.防災・セキュリティの強化
災害や事故、情報漏えいといったリスクは、事業の継続そのものを脅かします。そのため、防災やセキュリティの強化は従業員と事業を守るためには欠かせません。
例えば、避難経路の確保や設備の耐震対策、入退室管理システムの導入などが具体的な施策にあたります。安全な環境は、従業員が安心して働くための前提条件です。リスクへの備えを施設面から固めて、企業の信頼を支える基盤づくりも進めていきましょう。
ファシリティマネジメントに関する資格
最後に、ファシリティマネジメントを体系的に学びたい場合の資格について紹介していきます。
ファシリティマネジメントに関する資格には「認定ファシリティマネジャー(CFMJ)」があります。この資格は、施設管理の専門知識を客観的に証明するものであり、JFMAをはじめとする3団体が協力して実施しています。
認定ファシリティマネージャー試験の流れ▼
出典:JFMA
この試験は、2021年から全国約350か所に設置されている指定の試験会場にて、パソコンで受験するCBT試験(Computer Based Testing)が導入されています。試験の合格率は44%ほどと言われており、難易度としてはやや難しい程度。試験範囲は広いため、受験に向けて勉強するだけでもファシリティマネジメントの理解はかなり深まるでしょう。
自社経営にファシリティマネジメントも取り入れていこう!
ファシリティマネジメントは、オフィスや設備を「コスト」ではなく「価値を生む経営資源」として戦略的に活かす考え方です。コスト削減や従業員の生産性向上、資産価値の維持、変化への対応力、CSRへの貢献など、その効果は経営の幅広い領域に及びます。大切なのは、PDCAサイクルを回しながら継続的に取り組むことです。
「会議室を増やしたい」「働き方の変化に合わせて空間を組み替えたい」といった課題があれば、施設面からの解決をお手伝いできますので、自社のファシリティマネジメントを一歩進めたいとお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。














