パーテーションでオフィスを間仕切る際、関わってくる法令をご存知ですか。法令に基づき、感知器などの設置が必要な場合があります。昨今、企業では法令順守(コンプライアンス)が、重要視されます。後から、「知らなかった!」と慌てないように、知っておくべき法令や、必要な設備の設置基準と費用相場を解説します。
パーテーション工事にかかわる法令とは
多くの企業では、オフィスのレイアウト変更や移転などの際、仕事の効率や、動線を考慮し、快適に過ごせるプランを考えて工事をすることでしょう。しかし、法令や条例に適合しているかの確認も忘れてはいけません。まずは、どんな法令が関わってくるのか、解説します。
■パーテーション工事に関わってくる法令
パーテーション工事や間仕切り工事に関わってくる法律は、主に下記の2つです。
それぞれどんな法律なのか、どんなことがパーテーション工事と関わってくるのか、詳しく見ていきましょう。
■消防法
消防法とは
消防法は、火災を予防し、災害が起きた場合でも、被害が広がらないようにすることを目的とした法律です。建物所有者やテナントは、避難経路の確保や、防火上必要な消防設備の設置と、維持管理が求められます。
どんなパーテーションが消防法の対象になる?
対象になるのは、天井まで間仕切るタイプの、施工型パーテーションや、LGS造作壁などです。オフィスや店舗で空間を間仕切る場合、全てのパーテーションが消防法の対象になるわけではありません。腰や背の高さくらいの、置き型や移動式のパーテーションなどで、防火設備や避難のじゃまにならないものは、対象になりません。
消防署への届け出も必要
新しいオフィスに入居する際は、所轄の消防署に『防火対象物使用開始届』を提出する必要があります。パーテーションで天井まで間仕切り、新たに個室をつくる場合には、『防火対象物工事計画届出書』の届け出も必要になります。これは、工事着工7日前までに提出しなければなりません。平面図や立面図のほか、必要な書類も多いため、間仕切り専門の業者に準備してもらうと良いでしょう。また、50人以上の従業員が在籍するオフィスでは、『防火管理者選任届出書』も必要になります。
パーテーション工事と関わる消防設備とは
消防法では、パーテーション工事に関わる消防設備として、次の設備の設置と維持管理を、建物の所有者やテナントに、義務づけています。
- 消火設備:スプリンクラーなど
- 警報設備:火災報知器(煙感知器または熱感知器)、非常用スピーカーなど
- 避難設備:誘導灯、非常灯など
- その他設備:排煙設備など
必要な箇所に、必要な個数が設置されていない場合、違法となります。設備がきちんと設置されている場合でも、例えば、通路に避難や救出のじゃまになる物を置いていると、除去しなければなりません。数年おきにある、所轄の消防署による査察の際などに指導を受け、従わない場合には、罰則もあります。
■建築基準法
建築基準法とは
国民の生命、健康、財産を保護するために、建築物を建設したり、安全に維持したりする際の、最低の基準を定めた法律です。
通路幅には規定がある
通路幅の規定は、建築基準法施行令において定められています。柱などが出っ張っている場合は、もっとも狭い部分で測らなければなりません。オフィス内をパーテーションで間仕切る際は、通路幅を守って建てるようにしてください。
〈通路幅の規定〉
- 部屋が片側にある通路幅:1m20㎝以上
- 部屋が両側にある通路幅:1m60㎝以上
避難階段までの距離も規定がある
パーテーション等で個室をつくる場合、避難階段までの距離についても規定があります。窓のある個室から避難階段までの距離は、14階以下で60m以内、15階以上で50m以内とされています。また、窓の無い個室は、14階以下で40m以内、15階以上で30m以内にする必要があります。ワンフロアが広いオフィスや、コールセンターなどのレイアウトを検討する際は、距離を確認するようにして下さい。
パーテーションの素材にも制限がある
建築基準法には、『内装制限』と呼ばれる規定もあります。一定の規模以上の建物や、無窓居室がある場合などに、壁や天井の内装材に対して、防炎性能の基準が設けられています。内装材には、パーテーションも含まれ、ビルの高層階(11階以上)や地下階などでは、不燃認定を受けているパーテーションしか使用できません。施工型パーテーションのなかでは、スチールパーテーションや一部のアルミパーテーションが不燃認定を受けています。内装制限は2020年4月に一部が改訂され、条件によっては緩和措置が受けられる場合もあります*1。また、ビル独自に、より厳しい規定を定めている場合もあるため、ビルのオーナーや管理会社などに、事前に確認しましょう。
*1 国土交通省告示第251号
パーテーション工事に伴う、感知器等の設置基準
次に、パーテーション工事に伴う、スプリンクラーや感知器等の設置基準を解説します。また、種類と費用相場を一覧にまとめました。工事の際の参考にしてください。
■スプリンクラー
スプリンクラーは、火災の発生を感知し、放水までを自動で行います。原則、地上11階以上の高層階と、地下、無窓階には設置されます。また、建物の用途や広さによっては、全ての階に設置されています。パーテーションを新たに建てる際は、水が届かない場所がないよう、移設や増設が必要になる場合もあります。また、設置基準は、自治体によってルールが違う場合がありますので、建物のある地域の自治体に確認して下さい。
〈スプリンクラーの設置基準〉
- スプリンクラーの散水できる範囲は、半径2.3mと2.6mのものがある
- スプリンクラーヘッドの周りは、水平方向に30㎝以内、垂直方向に45㎝以内は、物を置いたり、パーテーションを建てたりしてはいけない(散水障害になる)
■感知器
感知器とは
オフィスや住宅の天井で、10㎝くらいの円形の物を、見たことがあるかと思います。それが『感知器』です。感知器は、自動火災警報設備の一部です。火災が起きた際、煙や熱を感知して受信機に情報を送り、警報ベルや館内放送を連動する仕組みになっています。感知器には、煙、熱、炎の3種類があります。建物により、広さや用途にあったものが使われています。オフィスでは、主に煙感知器と熱感知器が設置されています。
感知区域について
感知器によって、火災の発生を有効に感知できる区域を、感知区域と言います。天井から突き出した梁や、パーテーションなどによって区画されます。熱感知器は梁下40cmまで、煙感知器は60㎝まで警戒することができます。パーテーションを建て、天井まで完全に間仕切る場合は、どちらの感知器でも、一部の免除される条件を除き、個室内にも設置が必要になります。
煙感知器の設置基準
煙感知器は、火災の初期に発生する煙を感知します。火災の早期感知に有効なため、広く普及しています。しかし、構造が複雑なため、熱感知器より費用は高くなります。
〈煙感知器の設置位置の基準〉
- 壁(パーテーション)や梁から60㎝以上離れた位置に設置
- 空調などの吹き出し口からは1m50㎝以上離れた位置に設置
- 天井が低い居室(約2.3m未満)や狭い居室(約40㎡未満)では、入口付近に設置
- 天井付近に吸気口(換気扇など)がある場合は、その近くに設置
- 隣接する感知区域との間に、感知器から下方60㎝以内に、縦20㎝×横1m80㎝以上の開口がある場合と、感知器から30㎝以内に縦20㎝×横30㎝以内の開口がある場合は、同一の感知区域となり、増設免除
熱感知器
熱感知器は、温度の上昇によって火災を感知します。火災による煙が、熱に変わった段階で感知するため、火災の早期検出能力は、煙感知器よりやや低くなります。
〈熱感知器の設置位置の基準〉
- 壁(パーテーション)や梁からの距離は規定なし
- 煙感知器と同様に、空調などの吹き出し口からは1m50㎝以上離れた位置に設置
- パーテーションを建てた場合でも、ランマ(欄間)がオープンで、概ね45㎝以上開いていれば、隣接する感知区域と同一となり、増設免除
■非常用スピーカー
用途が事務所の建物では、地上11階以上、または地下3階以上の建築物には設置が義務づけられています。
〈非常用スピーカーの設置基準〉
- 耐熱性がある、認定を受けたスピーカーを使用しなければならない
- 放送区域(壁で間仕切られた部屋)の、どの場所からも水平で10m以内に設置
- 8㎡以下の間仕切られた個室では、隣室のスピーカーまで水平で8m以下なら、設置が免除される
■誘導灯
誘導灯や誘導標式は、火災などの際、人々が安全かつ迅速に避難することを目的としています。不特定多数の人が利用する建物や、高層階(11階以上)、無窓階、地下などに設置・維持が義務づけられています。
〈誘導灯の設置基準〉
- パーテーションで間仕切る場合、個室の各部分から非常口までの距離が30m以上ある場合は、個室の出入口に設置
- 間仕切った個室から、主要な非常口を安易に目視できなければ、個室の出入口に設置
■排煙設備
火災発生時に、煙を屋外に排出し、避難する時間を確保するための設備です。オフィスビルでは、階数が3以上で、延べ面積が500㎡以上の建物などに設置されています。パーテーションを設置したことで、排煙口のないスペースができることのないよう、注意が必要です。一部、設置が免除されるケースもありますので、ビルの管理会社や自治体にご確認ください。排煙の方法2種類と、設置基準は下記になります。
〈排煙方法〉
- 自然排煙:排煙口(窓)から屋外に排出
- 機械排煙:天井に排煙口を設け、排煙機器でダクトから排出
〈排煙設備の設置基準〉
- 排煙口は、天井または壁の上部、80㎝以内に設けること
- 排煙口は、間仕切られた部屋(防煙区画)の、床面積の1/50以上の開口面積を確保
- 排煙口は、各部屋の一番遠い位置から、30m以内に設置
■消防設備の種類と費用相場まとめ
ここまでご説明してきた消防設備について、種類と費用相場を一覧にまとめました。パーテーション工事を検討する際に、参考にしてください。
パーテーション工事に関わる消防設備 種類と費用相場 | ||
分類 | 名称 | 費用相場(1台) |
消火設備 | スプリンクラー | 20万円~ |
警報設備 | 煙感知器 | 5万円~ |
熱感知器 | 3万円~ | |
非常用スピーカー | 5万円~ | |
避難設備 | 誘導灯 | 5万円~ |
その他設備 | 排煙設備 | 25万円~ |
パーテーションと設備の工事、注意点3つ
最後に、パーテーション工事と設備工事をする上での、注意点を3つ解説します。
■設備工事はB工事になることが多い
スプリンクラーや感知器などの設備工事は、消防資格をもった人にしかできません。移設や増設の際は、ビルの管理会社や、防災設備会社に依頼する必要があります。ビルの内装工事には、A、B、Cという工事区分があります。
パーテーション工事を行う場合、B工事とC工事の業者、2社以上が連携して工事を進める必要があります。パーテーション専門の業者は、このようなケースにも慣れているため、工程管理などは依頼すると良いでしょう。
■消防設備には、点検もある
消防設備は、一部免除の建物を除き、点検を実施し、報告することが義務づけられています。有資格者による定期的な点検を行い、建物を管轄する消防署、または出張所に報告します。頻度は、機器点検は半年に1回、総合点検は3年に1回(建物によっては1年に1回)と定められています。報告を怠ると、立ち入り検査などの指導が行われます。テナントビルの場合は、ビル全体で一斉に消防設備点検を実施するケースが多く、オフィスへの立ち入りを許可して、点検してもらいます。
■パーテーション工事と関わる法令は他にもある
消防法と建築基準法以外にも、パーテーション工事やオフィスレイアウトと関わってくる法律があります。それは『労働安全衛生法』と、『健康増進法』の2つです。それぞれどのような点で関わるのでしょうか。
労働安全衛生法とは
従業員が働く環境を、安全で快適な状態に維持管理するよう、事業者に課されている法律です。細かい内容は、『事務所衛生基準規則』に定められ、快適な職場づくりは、事業者の努力義務とされています。オフィスの作業環境を整え、疲労やストレスを軽減させるために、休憩室の設置なども求められています。また、作業時の明るさなどの基準も定められています。
間仕切る際は、明るさ(照度)も注意
オフィス内の照度について、これまでは、精密な作業では300lux以上、一般的な作業では150Ikx以上が必要とされてきました。しかし、2022年12月には、基準が引き上げられる予定で、一般的な事務作業でも300lks以上必要となる予定です。パーテーションで天井まで間仕切る際、照明についても、不足があれば増設や移設をし、必要な照度を確保してください。パーテーションのランマをオープンにしたり、ランマ(欄間)をガラスにしたりすることで、採光を取る方法もあります。
健康増進法とは
健康増進法は、国民の健康の増進や、国民保険の向上を図るための法律です。そのなかの1つとして、禁煙の推進や、受動喫煙の防止が定められています。2020年4月の改正健康増進法により、一般のオフィスビルにおいても、原則として、屋内は禁煙となりました。
パーテーションで喫煙室を設置する
適切な設備と管理体制があれば、オフィスに喫煙専用室を設置することは可能とされています。パーテーションで間仕切って、オフィスに喫煙室をつくる企業も多くあります。喫煙テーブルや空気清浄機を置くだけでなく、個室になるので、消防設備や照明など、適切な設備の設置が必要になります。
パーテーション工事に関わる法令とは?感知器等の設置基準を解説【まとめ】
パーテーションで天井まで間仕切る際、法令や条例を遵守して建てることが重要です。レイアウトを考える際も、仕事の効率アップや快適性を求めることはもちろん、法令に沿って、より安全なオフィスづくりをして下さい。法令や条例は、改訂や免除条件などもあり、とても煩雑です。パーテーション専門の業者に依頼するなどし、適切な設備を整えるようにしましょう。