誰もが働きやすい環境を作るためにはインクルーシブデザインという考え方が重要です。本記事では、インクルーシブデザインの特徴や必要性などについて解説していきます。考え方をオフィスに取り入れた事例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
インクルーシブデザインとは?
インクルーシブデザインとは、障害者・高齢者・外国人などの今まで見落とされがちだった人々を巻き込んで新たな価値創造をするデザイン手法を指します。
インクルーシブデザインを取り入れた洗濯洗剤ボトルの例
出典:花王株式会社
例に挙げた画像の洗濯洗剤用ボトルは、握力の弱い人や高齢者、手指の不自由な人が使いやすいようにノズル形状にデザインされました。マイノリティを対象にしたデザインですが、今ではあらゆる層の人々から使いやすい点が評価されています。
インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い
例を見て、ユニバーサルデザインと似ていると感じた方も多いでしょう。インクルーシブデザインとユニバーサルデザインは、デザイン工程が大きく違うのですが、アウトプット(完成したデザイン)が同じ可能性もあります。そこが違いを不鮮明にしている原因です。そこで、インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いをデザイン手法とターゲットに分けて詳しく解説していきます。
<まとめ:インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い>
インクルーシブデザイン | ユニバーサルデザイン | |
目的 | 新しい価値を社会に取り込む | 社会から見落とされる人を減らす |
ターゲット | 障害者などのマイノリティ | 健常者を軸としたできるだけ多くの人 |
デザイン手法 | 価値創造型 | 仮説検証型 |
原則 |
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大きな違い | ・見落とされがちだった人々をデザイン過程から巻き込み、特定の人にとって使いやすい商品やサービスを作る
・万人受けするとは限らない |
障害をあらかじめ想定したうえで汎用性の高い商品やサービスを作る |
デザイン手法
まず、決定的に異なるのがデザイン手法です。ユニバーサルデザインは、確立されている7原則に則って、より多くの人がバリア(障害)なく使えるようにデザインする手法のこと。あらかじめ障害となりえることをできるだけ想定したうえでデザインを進めるため、仮説検証型のプロセスと言えます。
ターゲット
それぞれのデザインにおけるメインターゲットも異なります。インクルーシブデザインは「障害者などのマイノリティ」を対象としており、ユニバーサルデザインは「障害者などのマイノリティを含んだできるだけ多くの人」が対象です。
インクルーシブデザインが注目されている理由
続いて、インクルーシブデザインが注目されている理由を解説していきます。
価値観の多様化
まず、生き方や働き方に対する価値観が多様化してきていることが理由の一つです。例えば、昔は職場における女性の権限はかなり低く扱われていました。しかし近年では、管理職を担っている女性が増えてきており、会社もそれを後押ししています。
SDGsの浸透
また、SDGsの広がりもインクルーシブデザインが注目されている背景です。SDGsは「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指しており、その実現に向けて17の目標を掲げています。
SDGsが掲げている17の目標
SDGsが目指す社会に含まれる「包摂性(ほうせつせい)」とは「多様な人々を受け入れ、調和を図る」という意味です。つまり、見落とされがちな人を包括するために、マイノリティの課題解決を軸にしているインクルーシブデザインは欠かせません。社会に適合したマイノリティの人が不便を感じにくい商品やサービスの開発は、社会全体の調和につながります。
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インクルーシブデザインのコツ3つ
ここでは、インクルーシブデザインを取り入れる際のコツを3つ紹介していきます。
コツ1.生の声を集める
インクルーシブデザインはマイノリティを巻き込んでデザインしていく手法なため、ターゲットとなる人々の声が欠かせません。また、対象は高齢者や障害者だけに限らず、生活や仕事をしていて不便と感じることが該当する場合もあります。
コツ2.マイノリティに対する理解を深める
プロジェクトのテーマが決まったら、対象の人々への理解を深めましょう。インクルーシブデザインに限らず、困りごとの本質を見抜けないと、本当の意味での解決はできません。「氷山の一角」という言葉があるように、本質的な問題が解決しないと、いつまでも現象と言える問題が発生し続けます。
氷山の一角のイメージ▼
そうならないために、ターゲットへの深い理解は必須です。マイノリティの悩みをしっかり深堀りして、問題の本質を見極めましょう。
コツ3.用途を限定しない
デザインのアウトプットとなる商品やサービスの用途を限定し過ぎないのも大切です。というのも、マイノリティにとって最適な商品だとしても、その他のマジョリティが使いづらくなる可能性があるからです。
インクルーシブデザインを取り入れたオフィス事例5選
インクルーシブデザインの思考を取り入れた事例を紹介していきます。難しく考えず、困っている人を取りこぼさないためにはどうしたら良いかを考えて対策を講じてみましょう。
事例1.昇降機能付きデスク
昇降機能付きのデスクは、車椅子の人や身長が平均より大きく離れる人にもちょうど良い高さに調節できます。また、スタンディングワークのような立位でも使える高い汎用性も魅力です。車椅子の人が使う場合は、車椅子がスムーズに出入りできるか脚の幅が最低でも80cm以上の商品を選びましょう。
事例2.集中ブース
こちらは作業がしやすい環境を自分で選べるように、集中ブースを設置した事例です。集中を妨げる人の視線や雑音などの程度には個人差があります。オフィスや自身の状況に応じて選べるスペースは、誰もが能力を発揮するためには大切です。過剰に反応してしまう人など、従業員のバックグラウンドも加味して設計しましょう。
事例3.可動式ソファー
出典:QUON
続いて、可動式ソファーの紹介です。シーンや用途に応じてレイアウトを変えられるため、ユーザーの思い通りに使えます。
<シーン別の使い方例>
- 休憩:長椅子のように壁沿いに横並びにする
- ミーティング:円形に並べて話しやすくする
- 個人使用:スペースを開けてバラバラに並べる
ソファーに限らず、可動式の家具は汎用的に使いやすいため失敗しにくいと言えるでしょう。
事例4.多目的トイレ
多目的トイレもマイノリティの属性によっては必要な設備です。例えば、車椅子、オストメイト、LGBTQなどの人は、男女で区別されたトイレが使いにくい場合があります。例に挙げた三者の場合、トイレには以下のような機能が必要です。
<属性別の必要な機能例>
マイノリティの属性 | トイレに必要な機能 |
車椅子 | ・80cm以上のドア幅 ・段差なしの出入口や通路 ・便座に移動するための手すり |
オストメイト | ・排泄物の処理やストーマ装具の交換・洗濯ができる設備 ・ストーマ装具の廃棄ができる設備 ・臭いがこもりにくい換気システム |
LGBTQ | ・性別関係なく誰でも使える個室トイレ |
マイノリティの属性を踏まえて、適切な設備を揃えましょう。当社は壁・床・便器の取り付けまで一貫して承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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事例5.開閉自由な仕切り
最後は、開閉自由な仕切りを取り付けた事例です。著者が勤めていた企業は障害者アスリートの採用を行っており、視覚障害や脚が不自由などの障害を持つアスリート選手も社員の一人として働いていました。車いすや補助者が必要な社員にとって、ドア幅はバリアになり得る要素で、入退出をしにくそうにしているシーンを見かけたことがあります。
インクルーシブデザインですべての人に優しい職場環境を創ろう
インクルーシブデザインの特徴や必要性などについて詳しく解説しました。インクルーシブデザインは「困っている人を取りこぼさないためにはどうしたら良いかを考えること」が大切です。除外されてきた人の悩みを解決し、その他大勢の人にも使いやすい環境になれば、より公平に働けるようになります。