働き方改革は、中小企業を含むすべての企業に求められる重要な取り組みです。しかし「どこから着手すればよいのか」「具体的に何を変えるべきなのか」が分からず、足踏みしてしまうケースも少なくありません。本記事では、働き方改革の必須ポイントを分かりやすく整理し、さらにオフィス環境を整える際の具体的なリニューアル事例までまとめてご紹介します。
働き方改革とは?
働き方改革とは「働く人が多様で柔軟な働き方を選べる社会」をつくるための取り組みです。
日本国内雇用の約7割を担う中小企業にとって、人材確保は大きな課題です。現在、求職者有利の「売り手市場」だからこそ、選ばれる企業になるためには、働き方改革の積極的な推進が欠かせません。魅力ある職場にして、人材不足を解消していきましょう。
働き方改革における11の対策ポイント
働き方改革では、多くの法改正が行われています。ここでは、企業が対策すべき11のポイントを整理していきます。
1.時間外労働の上限規制の導入
まず、長時間労働は健康障害を招くリスクが高いため、定時を超えた時間外労働において上限が定められています。
<時間外労働の上限>
| 該当パターン | 法定時間 |
| 原則(全職種) | ■月単位は45時間が上限で、月45時間を超えられるのは年6か月まで
■年単位の上限は360時間 |
| 臨時的かつ特別事情がある場合 | ■年:720時間以内
■時間外労働+休日労働:月100時間未満、2~6か月の平均が80時間以内 |
参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」/労働基準法
2.大中小企業の時間外労働に対する割増賃金率の改定
時間外労働には「残業代」のような報酬が発生するケースが一般的ですが、月60時間を超える残業には「50%以上」の割増賃金が必要です。以前は中小企業には猶予措置が取られていましたが、2023年4月以降、猶予は廃止済みです。
割増賃金の改正ポイント▼
出典:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
大中小企業に該当するすべてが対象なため、報酬制度を必ず確認してください。自社がどのカテゴリーに該当するかは、以下の「資本金または出資の総額」または「常時使用する労働者数」のどちらかを満たすかで判断されます。
<中小企業の該当条件>
| 業種 | 資本金または出資の総額 | 常時使用する労働者数 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 上記以外のその他 | 3億円以下 | 300人以下 |
時間外労働の割増賃金率は、今まで猶予されていた中小企業も該当するため、必ず対応していきましょう。
3.有給休暇の確実な取得
働き方改革に伴う法改正によって、従業員に年5日の有給休暇を必ず取得させることが義務になりました。(参照:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」)これは、年次有給休暇が10日以上付与されている従業員が対象で、働き方改革の柱である「働く時間と生活の調和」を実現するために欠かせません。
まずは誰でも有給休暇が取りやすい社風づくりを心掛けてください。筆者の例のように、上層部を動かすのが有効かもしれません。従業員の心身リフレッシュを促し、結果として離職防止や生産性向上につなげていきましょう。
4.労働時間把握の実効性確保
結論として、労働時間の把握は「客観的な方法」が原則化されました。働く時間を従業員任せにするのではなく、企業が責任を持って把握しなければなりません。というのも、自己申告制のみでは労働時間の過少申告や実態との乖離が起こる懸念があるためです。
厚生労働省は「ICカードの入退室記録」や「パソコンのログ」などの客観データの活用を推奨しています。(参照:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)
労働時間の見える化を行い、従業員の健康やモチベーションを維持するために過重労働を防いでいきましょう。
5.フレックスタイム制の見直し
多様な働き方に対応できる制度の一つである「フレックスタイム制」において、清算期間が1か月から「3か月に延長」されました。フレックスタイム制とは、一定の期間にあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、従業員自ら「毎日の始業・終業時刻」「労働時間」を決められる制度のことです。
厚生労働省の資料では、生産性・満足度・定着率の向上が期待できるとして紹介されています。(参照:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)特に、業務の繁閑差が大きい企業にとっては有効で、繁忙期に働いた分を閑散期に調整する働き方がしやすくなります。
フレックスタイム制を活用した業務分散のイメージ▼
制度導入にあたっては、労使協定の締結や従業員への説明も欠かせません。また、フレックスタイム制を生かすには“働く場所”の柔軟性も重要です。フリーアドレス化やWeb会議環境の整備など、オフィス環境の改善とセットで検討し、効果を高めていきましょう。
≫職場環境を改善する方法は?具体的な事例や注意点について解説
6.勤務間インターバル制度の普及促進
勤務間インターバル制度は「終業時刻から次の始業までに一定の休息時間を確保する」仕組みです。睡眠不足や長時間労働による健康障害を予防するため、制度導入が努力義務とされています。
日本でも同等の健康確保施策が求められていて「9時間以上11時間未満」もしくは「11時間以上」を達成目標にした助成金制度もありました。(参照:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」)
十分な休息は従業員の健康維持や疲労軽減には欠かせません。従業員の満足度向上のためにも、勤務間インターバルという考え方も取り入れていってください。
≫ワークライフバランスとは?メリットデメリットや具体的な取り組みを解説
7.産業医・産業保健機能の強化
働き方改革では、産業医・産業保健機能の強化も求められています。(参照:厚生労働省「事業主・産業医・その他産業保健関係者の皆様へ」)近年、働けなくなる原因は風邪などの一時的な不調だけでなく、過重労働や人間関係の負担から生じるメンタルヘルス不調も増えています。心身の乱れは長期離職につながりやすいため、企業が早期に気づける体制づくりが重要です。
このように、産業医は従業員が安心して相談できる第三の窓口としても機能します。従業員の健康維持はもちろん、メンタル不調の早期発見のためにも、産業医・産業保健機能の強化を進めていきましょう。
8.従業員の待遇格差をなくすための規定整備
さまざまな雇用形態があるなかで、待遇格差の社会問題化を背景に、職務内容や責任範囲が同じであれば、雇用形態に関わらず待遇を均等にすることが義務化されました。待遇方式は2通りあり、方式に合わせた公正な対応が必須です。
<公正な待遇方法のポイント>
| 待遇方式 | 禁止事項 | 概要 |
| 均衡待遇 | 不合理な待遇差の禁止 | ①職務内容
②職務内容・配置の変更の範囲 ③その他の事情 以上の3点の違いに応じた範囲内で、待遇を決定する必要がある |
| 均等待遇規定 | 差別的取扱いの禁止 | ①職務内容
②職務内容・配置の変更の範囲 以上の2点が同じ場合、待遇について正社員と同じ取扱いをする必要がある |
厚生労働省は、基本給・手当・賞与・教育訓練など、個々の待遇ごとに合理性を説明できる状態を求めています。そのため、業務内容の見える化や評価制度の再整理が欠かせません。派遣従業員においても均衡待遇が義務化されているため、派遣先・派遣元双方で連携して認識をすり合わせていってください。
9.従業員に対する待遇説明
従業員に待遇差がある場合、企業はその理由や内容を従業員に説明することが義務化されました。待遇説明は正規・非正規の間で生じやすい不満や誤解を防ぎ、働きやすい環境をつくるために欠かせません。
説明が不十分だと離職につながりやすいため、まずは等級制度や手当の基準を明確にし、誰に対しても丁寧に説明する体制を整えていきましょう。説明の質が高まるほど、企業への信頼も確実に積み上がっていきます。
10.履行確保措置と行政ADRの整備
そして、働き方改革では、企業が各制度を適切に履行できるよう、行政による指導体制や行政ADR(裁判外紛争解決手続)が整備されています。法改正では、以下の点が変更されました。
<履行確保措置と行政ADRの主な変更点>
| 対象 | 改正前 | 改正後 |
| 行政による報告徴収・助言・指導など | ■対象は短時間従業員・派遣従業員
■有期雇用従業員は規定なし |
■対象は短時間従業員・派遣従業員・有期雇用従業員
■有期雇用従業員が対象に追加 |
| 行政による履行確保措置 | ■対象は短時間従業員・派遣従業員
■有期雇用従業員は規定なし |
■対象は短時間従業員・派遣従業員・有期雇用従業員
■有期雇用従業員が対象に追加 |
| 行政ADR | ■短時間従業員は部分的に規定あり
■派遣従業員・有期雇用従業員は規定なし ■短時間従業員でも均衡待遇規定に関する紛争は対象外 |
■対象は短時間従業員・派遣従業員・有期雇用従業員
■派遣従業員と有期雇用従業員が対象に追加 ■均衡待遇や待遇差の内容や理由に関する説明も行政ADRの対象に追加 |
参考:厚生労働省「行政による履行確保措置及び行政ADRの整備」
まずは、自社の就業規則や労働時間管理、待遇説明のプロセスを見直し、いつでも根拠を示せる状態に整えておきましょう。日頃からルールを運用できる形に整理しておくことが、従業員の信頼を守り、トラブルを未然に防ぐ最善策になります。
11.高度プロフェッショナル制度の導入
最後に「高度プロフェッショナル制度」についてです。高度プロフェッショナル制度とは、時間ではなく成果で評価する働き方を認める制度。高度な専門性を持つ従業員を対象とし、要件(年収1,075万円以上など)や本人の同意が必要です。
厚生労働省の最新資料(2025年3月末)によると、高度プロフェッショナル制度の届出企業は全国で34社にとどまっているものの、働き方改革に伴って推進されている制度自体を知っておくことは大切です。働き方改革を進めるうえで、制度や解釈に迷ったら「働き方改革推進支援センター」を頼るのも良いでしょう。
働き方改革に伴うオフィスのリニューアル事例
働き方改革を進めるうえで、制度の見直しだけでなくオフィス環境の整備も欠かせません。従業員が「どこで・どう働くか」に合わせて空間を最適化すると、生産性やコミュニケーションの質が大きく変わります。ここでは、働き方改革と相性の良いオフィスリニューアルの代表例を紹介します。
<働き方改革と相性の良いオフィスのリニューアル例>
| リニューアル例 | イメージ | おすすめポイント |
| 集中スペース導入 | ![]() |
■個人作業に最適
■周囲を気にせず集中でき、生産性向上 ■防音・吸音施工との相性が良い |
| フリーアドレス導入 | ![]() |
■席を自由に選べ、働き方の柔軟性が向上
■部署をまたいだコミュニケーションが生まれやすい |
| コミュニケーションスペースの新設 | ![]() |
■自然な会話や相談が生まれやすい
■アイデア共有が促進されやすい |
| 小会議室の増設 | ![]() |
■Web会議の声漏れ対策に効果的
■ガラスパーテーションならデザイン性も向上 |
| ロッカー・個人棚の導入 | ![]() |
■フリーアドレスとの相性が良い
■荷物管理のストレス軽減 ■セキュリティ性の向上にも寄与 |
| リフレッシュルームの設置 | ![]() |
■健康経営の観点から効果的
■気分転換の場となり満足度向上 |
まずはゾーニングを見直して、従業員が働きやすい環境を検討してみましょう。当社では、レイアウト変更に伴うパーテーション工事や電気工事全般も承れるので、気軽にご相談ください。
≫オフィスレイアウトにおけるゾーニングとは?考え方や事例を紹介
働き方改革を正しく推進して従業員が働きやすい環境をつくろう!
働き方改革について、基礎知識から対応が必要なポイントを詳しく解説しました。あわせて、働き方改革に伴うオフィスのリニューアル案も紹介したので、すぐ対応できることも見えたのではないでしょうか。従業員が安心して働ける空間の整備は、生産性向上や離職防止にもつながる重要な取り組みです。














