従業員が自身の予定を加味して働く時間を柔軟に調整できる制度を「フレックスタイム制」または「フレックス」と呼んでいます。働き方の自由度が高まる仕組みとして浸透しており、働き方改革でも推奨しています。本記事ではフレックスタイム制のメリット・デメリットを解説していきます。導入手続きやQ&Aも紹介するので、制度の理解にお役立てください。
フレックスタイム制とは?
あらかじめ定めた「清算期間」と「その期間内の総労働時間」の範囲で従業員自身が出退勤の時刻やその日の労働時間を調整できる制度をフレキシブルタイム制と呼びます。
フレックスタイム制のイメージ▼
一般的には、全員が勤務をしなければならない「コアタイム」と、働き方を調整できる「フレキシブルタイム」が設けられているケースが大半です。一方で、コアタイムを設けないフレックスタイム制を「スーパーフレックスタイム制」と呼び、完全に従業員の裁量に任せている企業もあります。いずれにしても、自由度が高い働き方であり、従業員各自の自己管理が重要です。
フレックスタイム制のメリット4選
次に、フレックスタイム制の導入で期待できるメリットを4つ抜粋して紹介していきます。
メリット1:ワークライフバランスの両立
まず、ワークライフバランスを両立しやすいのがフレックスタイム制の大きなメリットです。従業員の私生活に合わせて出退勤の時刻、その日の勤務時間を最適化できるためです。
<フレックスタイム制の活用例>
- 始業を午後からにして、午前中に美容院へ行く
- 夕方に子供のお迎えがあるから、1時間早く退勤する
このように予定に合わせて出退勤の時刻を調整できるため、私生活も大切にしやすい制度です。ただし、清算期間に応じた総労働時間(労働すべき時間)が定められています。勤務時間を少なくする日を作る場合は、清算期間内の他の日で労働時間を補えるようスケジュールを組んでください。
≫ワークライフバランスとは?メリットデメリットや具体的な取り組みを解説
メリット2:残業時間の削減
フレックスタイム制では、清算期間内であれば勤務時間の配分を変えられるため、固定時間制より残業時間を調整しやすい制度と言えます。
フレックスタイム制と固定時間制の清算方法の違い▼
固定時間制ではその日長く働けば「残業」になり、定時よりも早く退勤すると「早退」扱いになるのが一般的です。しかし、フレックスタイム制なら多く働いた分、清算期間内の他の日に早く帰宅するのも可能。つまり、稼働時間を清算期間内で均等に振り分けられるイメージです。
メリット3:個人の業務効率向上
フレックスタイム制では、個々の集中しやすい時間帯で働けるため、業務効率の向上が期待できます。
人間の生体リズムには個人差があり、研究でも朝型・夜型といったクロノタイプによって“最もパフォーマンスが上がる時間帯”が異なると報告されています。著者は朝型のタイプで、前職のフレックス勤務では早朝に集中して作業を進め、午後はゆとりのある予定を入れる働き方ができていました。
従業員が本来の力を発揮しやすい時間帯で働けるように、フレックスタイム制をはじめ、柔軟な働き方の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
メリット4:企業イメージの向上
柔軟な働き方を整えている企業は、社内外からの評価が高まりやすい傾向にあります。なぜなら、働き方の選択肢の多さは「働きやすい職場づくりに取り組んでいる企業」と見られ、人材定着や採用活動にも好影響が出やすいためです。
著者が勤務していた企業でも、人材確保が課題となった時期にフレックスタイム制度や勤務パターンのバリエーションを広げたところ、応募が増えたそうです。柔軟な制度は採用面の魅力づけにもつながり、人材不足の改善にも効果が期待できます。
働き方改革を進めるうえで、企業イメージの向上は大切です。フレックスタイム制を上手く取り入れながら、自社の魅力度アップにもつなげていきましょう。
フレックスタイム制のデメリット
どのような制度でも注意すべき点があり、対応ができていないと課題に転じるケースがあります。ここではフレックスタイム制のデメリットになり得る例を紹介していきます。
<フレックスタイム制のデメリット例>
| デメリット | 理由 | 問題点・リスク |
| 労働時間の管理が複雑になる | ■清算期間内で労働時間を調整する必要があるから
■個々の働き方に合わせた管理が求められるから |
■勤怠管理の負荷増加
■システム整備コストの発生 ■勤務時間不足が月末に集中しやすい |
| コミュニケーションが取りづらくなる | ■出退勤の時間帯がそろわないから
■対面での確認や共有タイミングが合いにくいから |
■会議調整の難化
■情報共有の遅延 |
| スケジュール調整が難しくなる | ■各自の勤務帯が異なるから
■チーム全体の稼働状況を把握しづらいから |
■引き継ぎの遅れ
■調整作業の増加 ■連携ロスの恐れ |
| 業務の属人化が進みやすい | ■同時に勤務する時間が減るから
■他者がサポートしづらくなる可能性があるから |
■一部の従業員に負荷が集中
■業務のブラックボックス化 |
表のとおり、運用を誤ると負荷が偏ったり、コミュニケーションの質が下がったりする可能性があります。制度を効果的に活用するためには、勤怠管理の仕組みや運用ルールの明確化が欠かせません。導入時は、制度そのものだけでなく運用面まで設計しましょう。
フレックスタイム制導入における必須手続き
フレックスタイム制の導入では、法令上、おさえるべき手続きがあります。厚生労働省の導入手引きに従って、2つの対応を進めましょう。
必須1.就業規則に明記する
まず、就業規則にフレックスタイム制を明記しなければなりません。具体的には、出退勤の時刻を従業員が決定できること、対象となる従業員の範囲、制度の基本的な内容など、フレックスタイム制の枠組みを就業規則に明文化してください。
就業規則にフレックスタイム制が反映されていない場合は法的に成立しません。会社の制度方針を就業規則にきちんと位置づけることが導入の第一歩です。
必須2.労使協定で制度内容を細かく定める
次に、フレックスタイム制の具体的な運用内容を労使協定で定めることも必須です。協定では、主に次の事項を定めます。
<労使協定で定めるべき主な事項>
- 清算期間
- 対象労働者の範囲
- 標準となる1日の労働時間
- 清算期間における総労働時間
- コアタイム(※任意)
- フレキシブルタイム(※任意)
必須手続きを整えたあとは、勤怠管理システムの活用や、会議時間帯・情報共有ルールなどを社内で共有しておくと運用がスムーズです。制度を安定して定着させるためにも、社内の仕組みづくりやルールの周知を並行して進めていきましょう。
フレックスタイム制と相性の良いオフィスレイアウト事例
続いて、フレックスタイム制と相性の良いオフィスレイアウト事例を紹介していきます。フレックスタイム制だと従業員の出社時間が分散するため、時間帯によってオフィスの混雑状況が変わります。従来のレイアウトでは運用しにくくなる場合もあるため、制度導入にあわせて、柔軟に使えるオフィス環境に整えることが大切です。
<フレックスタイム制に適したオフィスレイアウト例>
| オフィスレイアウト例 | レイアウトイメージ | 解決できる課題例 |
| オープンスペース | ![]() |
■コミュニケーション不足
■情報共有の停滞 ■時間帯ズレによる連携のしづらさ |
| ワンフロアオフィス | ![]() |
■部署間連携の不足
■勤務帯が違うスタッフ同士の連携低下 |
| フリーアドレス | ![]() |
■席の偏り
■固定席のムダ |
| パーテーションによるゾーニング | ![]() |
■集中できない環境
■オンライン会議の音漏れ ■用途が混在している空間の整理 |
「どのようなオフィス環境だと使いやすいか」など、従業員に意見を聞くのも良いでしょう。自社にとって最適なオフィス環境を模索してみてください。
≫パーテーションを事務所に導入するメリットと失敗しない選び方
フレックスタイム制導入でよくあるQ&A
フレックスタイム制の導入に関するよくあるQ&Aをまとめました。制度の理解を深めて、導入後のトラブルを回避していきましょう。
Q1:フレックスタイム制が向いている業種とは?
フレックスタイム制は、業務量や作業ペースを自分で調整しやすい職種ほど効果が出やすい働き方です。
<フレックスタイム制が向いている業種例>
- 企画・商品開発
- 研究職・開発職
- マーケティング
- ITエンジニア・プログラマー
- ライター・編集・コンテンツ制作
- Webデザイナー・クリエイティブ職
- 経理・総務などのバックオフィス職
Q2:清算期間とは?
清算期間とは「〇月〇日から△月△日まで」と清算の対象となる期間のこと。清算期間内の「実労働時間」と「総労働時間」を確認して、勤務実績を管理します。清算期間は、2019年の法改正に伴って「最長3か月」に延長されています。
Q3:勤務時間の上限は?
フレックスタイム制では、法律上、1日単位の勤務時間に明確な上限はありません。ただし、自社の「総労働時間」は、法定労働時間である「週40時間内」に収まる範囲で定めておく必要があります。
| 法定労働時間の総枠=1週間の法定労働時間(40時間)× 清算期間の暦日数 ÷ 7日 |
例えば、1か月の清算期間で、暦日数が31日の法定労働時間の総枠は「40時間×31日÷7日≒177.1時間」です。
Q4:残業の取り扱い方は?
フレックスタイム制にも残業という概念はあり、清算期間ごとに定められている「法定労働時間の総枠」を超えて働いた時間が、時間外労働(残業)に該当します。その際の残業代は、原則以下の計算式で算出します。
| 残業代=1時間あたりの基礎賃金×時間外労働×割増率 |
まずは、清算期間が1か月のケースで時間外労働について確認しておきましょう。
<清算期間1か月の計算例>
| 清算期間の暦日数 | 法定労働時間の総枠※1 | 実労働時間 | 時間外労働※2 |
| 31日 | 177.1時間 | 185時間 | 7.9時間 |
| 30日 | 171.4時間 | 13.6時間 | |
| 29日 | 165.7時間 | 19.3時間 | |
| 28日 | 160.0時間 | 25時間 |
※1:小数点第二位を四捨五入、※2:「実労働時間」から「法定労働時間の総枠」を差し引いた時間
暦日数によって法定労働時間の総枠が異なるのを前提に、時間外労働を清算してください。
Q5:清算期間1か月以上の残業時間の計算方法は?
フレックスタイム制の残業時間の算出は、清算期間が「1か月以上」だと少し複雑です。というのも「1か⽉ごとに1週間当たり50時間を超えて労働させてはいけない」と決まっているため、当月ごとと清算期間とで、以下の対象について計算しなければならないからです。
<清算期間が1か月以上の法定時間外労働の対象>
- 1か月ごとに、週平均50時間を超えている分の労働時間…①
- 清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えている分の労働時間…②
※②は①でカウントした労働時間を除く
詳しい計算方法は厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」を参考にしてください。
Q6:有給休暇を取得した場合は?
フレックスタイム制のもとで有給休暇を取得した場合、その日は所定労働時間分を勤務したものとして扱います。
| 有給休暇の清算=有給休暇を取得した⽇数×標準となる1⽇の労働時間 |
そのため、労使協定ではあらかじめ「標準となる1⽇の労働時間」を定めておかなければなりません。
Q7:時差勤務と何が違う?
時差勤務とフレックスタイム制の主な違いは「1日の労働時間が固定されているか否か」です。
フレックスタイム制を活かした働きやすい仕組みづくりを進めよう!
フレックスタイム制について、メリット・デメリット、よくある質問など詳しく解説しました。フレックスタイム制は働きやすさを高める一方、勤怠管理やコミュニケーション面で工夫が必要です。















