企業が本社移転するメリット・デメリットとは?首都圏脱出の話

人の移動が制限されたコロナ禍では、景気同行の指標の一つとなるオフィスの空室率や企業の移転の動向が話題となりました。今回は首都圏から地方へ移転する企業のニュースはよく見るけど、実際は企業にとって何が良いのか具体的なことがわからない、という方に向けてそのメリット・デメリットを解説します。

 

2021年1月~9月までの企業によるオフィスの移転傾向

企業の本社移転

2021年上半期は新型コロナウィルスの影響で強制的に働き方の変更が余儀なくされた企業が多い中、働き方だけではなく事務所を移転する企業が目立ちました。帝国データバンクによると2021年上半期(1月~6月)の東京都内からの企業の転出数は過去最多ペースで、その数は150社を上回る結果となりました。東京都内からの転出数は、転入数を上回り、終わりの見えないコロナ禍において、テレワークが緊急措置としてだけではなく、常態化に踏み切った企業による影響と考えられています。

 

他方、三菱地所リアルエステートサービスの調査では、都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)の事務所区画の空室率の上昇が顕著に現れたことがわかりました。2020年9月から2021年9月までの期間では港区の空室率が一番上昇し、賃料面では都内最高層の40,000円/坪台の事務所区画の空室率の上昇が特に顕著です。坪単価が高い事務所区画を借りることができる企業とは、それなりに支払い能力がある社会的信用のある企業です。

 

ここでいう社会的信用とは創立年数が浅くなく、売り上げがある程度安定して黒字である企業を指します。

 

上記のことから、ここ最近では規模感の大きい企業が移転をしていることがわかります。また、坪あたりの家賃が高い事務所の空室率が目立つということは家賃のコストカットを目指した戦略的移転を行っていることだと考えられます。企業の移転は退去予告を半年前から出さなければいけないことを合わせて考えると、少なくとも2021年の年始より移転計画が出されたはずです。日本国内で緊急事態宣言が初めて発令されてから1年半が経ったことを考えると、コロナ禍による緊急措置ではなく、アフターコロナへの戦略的な事業計画の一つに移転を含めた企業が多い結果となったのだと推測されます。

 

企業が首都圏から地方へオフィスを移転するメリット

では次に東京から首都圏外へ移転した場合を想定したメリットを解説します。ここでは東京都外を地方とします。一般的なオフィス移転のメリットには、以下があります。

 

  • 人員の増減によるオフィスの広さを拡充/縮小
  • 人口の多い地域での採用の強化
  • 大規模企業と同じ地域に事務所を構える企業ブランディング

 

それに加えてこれからお話しする3項目のメリットが自社にとってメリットとして考えられるかを加味すると地方移転への検討がより具体的に進むでしょう。

 

» ブランディングを考えたオフィス移転戦略とそのポイントとは?

 

固定費のコストカット

地方移転への第一のメリットは固定費、つまり事務所にかかる賃料を下げて固定費の削減が見込めることです。三幸エステートによると2021年10月末現在の6大都市大規模ビル・主要駅前地区の賃料は、丸の内(東京)39,523円、南口(札幌)16,056円、駅前本町(仙台)15,788円、名駅(名古屋)22,865円、梅田・堂島・中之島(大阪)24,362円、天神(福岡)19,931円と、東京が群を抜いて賃料が突出していることがわかります。このことから東京から東京都外へ移転をするだけで賃料が下がることがわかります。固定費は毎月の大きな支出のため、この固定費が下がることは会社全体の大幅なコストカットになること間違いなしです。大幅なコストカットが実現できれば、その分社屋の内装にお金をかけたり、従業員への還元として福利厚生の充実も可能となるため東京都内からの移転の最大のメリットとなります。

 

環境改善

環境とは社内と社外の環境の改善を指します。東京はその他の地域より圧倒的に土地価格が高いです。そのため、同じビルのグレードでも、土地価格が安価な地方都市部なら東京に比べて賃料が低くなります。東京に事務所を構えている時よりもコストをかけずビルのグレードが高いオフィス環境を社員に提供することが容易になります。社外環境の面では、満員電車に乗って通勤する、車の移動で渋滞に巻き込まれるなど従業員のストレスが減少するメリットがあります。人口が過密している東京と違い、人口自体が都内に比べて少ないため東京都内ほどの通勤ラッシュに巻き込まれることが無くなります。また、住宅の賃料はオフィスビル同様、都内に比べると安価になるため、従業員の住宅費用の負担が軽減されることも従業員にとってはメリットです。

 

行政からの優遇

日本は企業の機能が首都圏に集中していることを問題視していて、企業を日本各地へ分散させるため国を挙げて様々な支援をしています。地方自治体は地元への企業誘致が地域活性につながるとして企業誘致を歓迎し移転を迎えるための補助金や税制度を用意しています。例えば、千葉県は全業種、従業員50人以上で広さ500平米以上の土地に本社ビルを立てた場合、10億円以下の補助金支給や優遇する税制度を用意しています。自治体によって支援の内容は異なりますが、自治体の支援を受けて賃貸では叶えられなかった資産としての社屋を得るチャンスが与えられたり、法人税の削減が可能となります。

 

企業が首都圏から​​地方へオフィス移転するデメリット

次に東京から地方へ移転した場合のデメリットを解説します。一度事務所の場所を物理的に変えてしまうと、そうなかなか元に戻すことはできません。このデメリットを自社でクリアすることができるかどうかを考えながら解説を読むことをお勧めします。

 

クライアントとの物理的距離が遠くなる

まず、クライアントとの物理的な距離ができます。営業活動のしやすさから東京を拠点としていた企業は多いです。そのため地方へオフィスを構えると、会社から営業先への訪問に時間と出張費がかかってしまいます。一方で、テレワークができる業種は、オンライン会議により訪問が必須ではないことをコロナ禍で痛感したのではないでしょうか。地方に事務所を構えたとしても、物理的な距離が必要でない業種にとっては、地方への移転はデメリットになりません。テレワークが地方移転でのキーワードになります。自社の今後の就業体制と合わせて考えてみてください。

 

採用活動の変化

地方は東京に比べて人口が少ないため、当然のことながら募集をかけた場合に採用予定の人数が集まりにくい可能性があります。そのため、東京で行っていた採用活動とは別の方法を考えなければなりません。例えば、東京では求人媒体に求人を掲載し、応募を待つという手法があります。地方に移転するとしたら、汎用的な求人方法だけではなく、地元の大学の就職課に掛け合ったり、そのエリアで就職してほしい年齢やターゲットが目にする地方に根付いた媒体に求人広告を出すことが必要になります。採用に関する戦略の変化を見込んで地方への移転を考えてみてください。

 

社員への負担

オフィスが地方へ移転することは、従業員もその地方へ引っ越すことになります。そのため、引っ越しや生活環境の変化による物理的・心理的負荷が社員にかかることを覚悟してください。クラフトビール製造メーカーのFar Yeast Brewing社は東京都渋谷区から工場を構えていた山梨県小菅村に本社を移転していますが、もともと工場に社員が多くいたことや、東京は営業拠点として残したことから本社移転を比較的スムーズに成功させています。成功要因の一つは移転したエリアにもともと自社工場があり、多くの社員もそのエリアに住んでいたことです。地方への移転は、単なるコストダウンだけではなく、社員にとってもメリットがある場合に実現可能なのです。

 

企業が本社移転するメリット・デメリットとは?首都圏脱出の話【まとめ】

自社が首都圏外へ移転した場合を少しでも想像できましたでしょうか。コロナ禍以降、これまで実現が難しいと言われていた、テレワークが一度に普及し数年前では考えられない働き方が実現されています。これまでの概念にとらわれず、より良いオフィス環境作りを実現させてください。

 

 

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