ハイブリットワークを導入している企業は増えたけど、ハイブリッドワークは何が良くて、どういう問題が起きやすいのか?実は狭いオフィスに引っ越しちゃった方が家賃が安くてコスパが良いのでは?と考えている方に向けて、ハイブリッドワークのメリットや課題と賃料のコストシュミレーションを用いて解説します。
ハイブリッドワークの定義

ハイブリッドワークとはテレワークとオフィスワークを合わせたハイブリットなワークスタイルを指します。勤務先がオフィスだけでなく、自宅やコワーキングスペースなど複数の場所で働くことを可能とした就業スタイルです。例えば、会社への出勤は週一で、その他の勤務は在宅という出勤日が決まっているケースや、社員が必要性に応じて出勤とリモートワークを選ぶケースがあります。日本では、都市部にオフィスが集中しているため、災害時に経済機能が止まってしまうリスクや、都市部の地価高騰が相まって、もともと政府によりテレワークの導入が推奨されてきました。しかし、これまでは勤務体制の変更が企業にとって大きな負担となり導入は進みませんでした。ところが新型コロナウィルスのパンデミックにより一気にテレワークを導入する企業が増え、改めてハイブリットワークが注目されるようになります。
ハイブリッドワークを導入した時のメリット
次に、ハイブリッドワークを企業に導入した時に想定できるメリットを解説します。
働く環境を最適化できる
働く場所を固定しない、業務内容に合わせた就業環境が可能となります。例えば、システムエンジニアのようにPC作業が多い部門なら朝の通勤ラッシュ時に満員電車に乗らずとも、自宅で仕事ができます。さらに従業員間のコミュニケーション不足を解消するために、食事会や会場参加型の会議を定期的に行えば集中と交流のメリハリをつけることもできるようになります。
離職防止対策
働く意思はあるが、環境的に通勤が困難になった場合にもテレワークは便利です。内閣府男女共同参画局によると、近年では第一子を出産した女性の半数は職場を退職していました。しかし、調査が始まった1985年から現在に比べると育児休暇を利用し就業継続をした女性は5割以上増加しています。このことから、企業に育児をしやすい制度があれば、ライフスタイルが変わるため離職しやすい女性の就業継続は可能と考えられます。昨今の日本では労働人口の減少により人材不足が年々悪化しています。新規で採用するよりも今いる従業員に長く働ける環境を作ることは企業が生き残る術の一つと言えるでしょう。
採用に有利
新卒採用の就職活動ではテレワークの就業形態は人気の条件です。株式会社学情が2022年卒対象者5326名に行ったアンケートではプレエントリーを行う企業への条件としてテレワークの制度があることを希望する学生は50%以上にも登りました。また、2021年9月にはNTTはコロナ収束後も原則テレワークとする方針を発表し、日本を代表する企業が働き方を大きく変化させました。テレワークは働き方の一つとして認知され、近い未来はテレワークのできる企業が就職活動で人気の企業となることが考えられると話題になりました。テレワークを導入しその働き方を整備していくことは、今や人材を確保するために必要なこととなりつつあります。
ハイブリッドワークで起こりうる課題
これからハイブリッドワークを正式に導入検討している場合に、特に以下の3つの課題がクリアできるかを確認してください。
勤務状態が不透明になりやすい
当然ですが、目の前に監視の目がない場合には、今どこで何をしているのかリアルタイムで視覚的に確認することができません。多くの企業ではこの対策としてネットワークシステムを利用しています。例えば、一般的には勤務開始時はパソコンからシステムにログインし、離席中、電話中、などと現在のステータスシステムを導入しています。また、勤怠管理システムの中にはGPSで場所を図ることができるものもあります。監視があまり行きすぎるのも、社員のモチベーションを下げますが、業績が落ちてから従業員の勤務怠慢がわかってからでは手遅れです。こういったシステムを上手に導入して就業状態を守る必要があることを踏まえてハイブリットワークを導入してください。
評価基準が変わる
売上や裁量が数字や成果物に表しやすい業務は問題ないのですが、事務職やカスタマーサクセス事業部などルーティンワークやプロセスが見えにくく、裁量が数字に現れにくい業務をテレワークにする際の評価制度には注意が必要です。この場合は、評価する人の主観が反映されやすくもあるため人事評価の設定を見える化することから始めなければなりません。また、数値化がしにくい業務はその企業独自の業務であることも多いためテレワークをするにあたり人事評価の大きな変更が必要になることがあります。
セキュリティ関係の見直し
リモートワークはオフィス内で整備されたセキュリティの高いネットワークを利用するわけではありません。そのため情報漏洩のリスクが高まります。例えば、もし金融機関の顧客情報が漏洩してしまえばその企業の死活問題です。そのため、どうしてもテレワークができない業務もあるでしょう。パソコンは社外の人がいる環境では開かない、オンライン会議はカフェなど不特定多数の人がいる飲食店では行わないなど社内のルール化や対策を要します。
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ハイブリッドワークの事例【パソナグループ】
国内のハイブリッドワークの事例として一番話題となったのは大手人材企業の株式会社パソナグループです。パソナグループは2024年5月までに管理部門を対象とした約1200人を淡路島に移転した本社へ移動させると発表して話題となりました。この移転を可能にしたのがハイブリッドワークです。同社の創業者南部氏によると2020年から始まったパンデミックにより、テレワークが定着したことから働き方の改革や災害時の備えとして淡路島に拠点を移すことを決意したと話しています。東京に営業部機能を残す一方で、パソナグループは地方創生として、地方での採用も考えての移転でもあると述べており、今後の採用難を見据えての意味でもハイブリッドワークを導入しています。
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実際にコストをシュミレーションしてコスパを見る
では実際に、ハイブリッドワーク(出勤率50%)を導入した場合、移転せず現状のオフィスを使用し続けたケースと、オフィスを縮小移転したケースの、どちらがコストパフォーマンスが良いのか、その賃料をシュミレーションしました。今回は、渋谷区で社員50名の企業が社員の出社率を50%(週の半分はテレワーク)を行った場合についてシュミレーションです。元々のオフィスは150坪で、移転せずにそのままの広さのオフィスでハイブリッドワークを行うか、80坪のオフィスに移転してハイブリッドワークを行うかのコストを計算します。
以下は設定基準です
※渋谷区の渋谷区の50坪〜200坪の平均坪単価は約25,000円/坪です。
※出勤50%のため、移転先を約半分にした場合を想定しています。
《ケース①》150坪のオフィス
1ヶ月の賃料 | 3,750,000円=150坪×25,000円/坪 |
その他オフィス維持と諸経費 | ・定期代などの交通費
・広さあたりの水道光熱費 |
《ケース②》80坪のオフィス
1ヶ月の賃料 | 2,000,000円=80坪×25,000円/坪 |
その他オフィス維持と諸経費 | ・定期代はなし。随時交通費申請。
・テレワーク手当5000円 ・広さあたりの水道光熱費 |
《①150坪から②80坪への移転費用》
保証金8ヶ月 | 16,000,000円 |
内装工事費用 | 16,000,000円
※内装工事の相場坪単価20万円/坪で計算 |
原状回復工事 | 15,000,000円
※原状回復工事の相場坪単価10万円/坪で計算 |
引っ越し作業費 | 1,500,000円
※引っ越し作業の相場3万円/社員で計算 |
150坪から80坪の1ヶ月の賃料の差額は1,750,000円、年間にして21,000,000円になります。一方で150坪から80坪への移転費用は概算で上記を追加して4,850万円です。一見高く感じますが、旧オフィスへの入居時に同じく保証金8ヶ月を支払っていたと想定し、その保証金が返ってくると3000万円の保証金の返還が見込めます。つまり、差し引き1850万円の移転費用となります。移転費用は150坪から80坪へ移転した場合の差額は賃料で賄えることがわかります。
ハイブリッドワークを導入するために1850万円は効果と感じるか否か、今後の経営戦略によって大きく変わります。例えば、採用を強化する経営方針の場合は、テレワークを導入した方が人材は集まりやすいはずです。これまでの採用と比べお金をかけずに募集が集まりやすくなった、離職率が下がったため採用に費用をかけなくて済むようになった、ということも考えられます。これらのことを経営の観点から考えるとハイブリッドワークは単にオフィスで働くか、テレワークを行うか、だけの問題ではなく従業員とどのような会社を築いていくかが導入の軸となります。
» 【オフィス移転・事務所移転】スケジュールと流れを徹底解明
ハイブリッドワークとは?メリットや課題、事例を徹底解説【まとめ】
ハイブリッドワークを導入する企業が増えると、人々の働き方が変わり、生活様式が大きく変わります。これを良い機会とするためには、ハイブリッドワークのメリットと起こりうる課題を想定して組織作りをしなければなりません。先行きがわかりにくい世の中ではありますが、組織の軸に置いているものは何か、しっかり捉えながら、より良いオフィス作りをしてください。